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肝芽腫の会ライン


肝芽腫の発症年齢は0才〜4才までが最も多く他の小児がんと比べて低いため、化学療法によって永久歯にダメージを受けることがあります。ただしこのダメージは治療中にはまったく分かりません。
治療終了後4年くらい経ってから歯のレントゲンを撮ってみて、初めて形成障害があるのかどうかが分かります。一度受けたダメージをもとに戻すことは出来ませんが、その後のケアや対処方法を知ることで、日常生活への影響を最小限にしていくことが出来ます。また化学療法をしている場合、形成障害があるのかどうか分からない段階でも口腔ケアをすることは重要です。

      監修:佐々木康成(神奈川県立こども医療センター歯科部長)



1. なぜ肝芽腫の治療によって歯の形成障害を起こすことがあるの?
2. 肝芽腫の治療において形成障害の原因となるもの
3. 歯の形成障害の例
4. 化学療法中に認められる口の中の合併症
5. むし歯や歯周病ケアはどうする?
6. Q & A



  1.なぜ肝芽腫の治療によって歯の形成障害を起こすことがあるの? 

乳歯の発生は妊娠6〜7週から始まり、永久歯の約半数は生後に発生して、親不知を除いて15才頃まで形成が続きます。この形成期間は歯に傷がつきやすく、ダメージは歯にそのまま残ります。歯は1回作られると再生せず、例えば骨のように一度折れたものは自然にはくっつきにくいものです。 

歯には「歯冠(しかん)」と呼ばれる部分(口を開けて見える歯の部分)と、「歯根(しこん)」と呼ばれる歯茎の下に隠れて見えない部分があり、歯冠が出来る段階でダメージがあると、歯そのものが作られなかったり、作られても小さかったり、地層のような筋が残ったりします。

また歯根が出来る段階でのダメージでは歯の根っこがさまざまな形で短くなったりします。

いずれにしても歯の成長期時期と照らし合わせると、(原因そのものを歯から判断することは出来ませんが)「歯の形成に影響を与える何かがあった」大体の時期は特定することが出来ます。また、「最初に歯冠が作られていて、その後に歯根が出来る」ことを考えると、ダメージを受けた年齢が低ければ低いほどその影響もより大きくなるということが分かります。

肝芽腫の子のほとんどは4才頃までに発症し化学療法を受けるため、歯の形成時期と重なり「形成障害」を起こすことがあるのですが、もちろんすべてのお子さんに起こるわけではありません。




  2.肝芽腫の治療において形成障害の原因となるもの 

化 学 療 法
化学療法を7才までに受けると歯の形成障害が認められることが多い。
造血幹細胞移植



  3.歯の形成障害の例 

歯の欠如
その歯が全く作られない。

矮小歯(わいしょうし)
成長が悪くて本来の大きさにならない。

歯根短縮(しこんたんしゅく)
歯の根っこの部分が正常よりも短い。形によって下図のように型が分かれるが、いずれにしても根っこが浅いので抜けやすく、ぶつかるなどの衝撃に弱い。

成長が遅い
歯が出てくるのが遅い。エナメル質の形成が不十分。

(右の図)
治療終了後約3年の6才男児。
矢印は「矮小歯」。「歯根短縮は年齢が低いためまだはっきりと分らない。(2才4ヶ月〜3才4ヶ月まで化学療法をCITA6クール&ITEC6クールで治療。




  4.化学療法中に認められる口の中の合併症 

血小板減少による出血(歯茎や抜歯後)
免疫抑制剤による二次的な感染症(神経に達するむし歯から骨髄炎を起こすこともある)
潰瘍・口内炎ができる。
唾液の減少によるむし歯・歯周病

唾液が少なくなると口腔内の自浄作用が落ち、その結果むし歯や歯周病になりやすくなるということです。むし歯については白血病で治療を受けた患児とその兄弟との比較をしたものがあり、移植時では29.7%、化学療法で7.4%、頭蓋放射線照射で6.6%、それぞれ患児のほうがむし歯になる率が高いという結果が出ています。



  5.むし歯や歯周病のケアはどうする? 

薬による歯の形成障害を予防する方法はありませんので、とにかく健常児以上に口腔ケアが必要です。
大事なのは、「歯磨き」「甘い間食のコントロール」「歯質の強化」
むし歯の予防については基本的にはブラッシングが大切です。また、歯科で定期的にフッ素を塗ってもらうというのも効果的です。

治療中のイソジンなどでのうがいは、感染症の予防や一時的な口腔内の消毒にはなりますが、むし歯菌の抑制効果は低く、やはりブラッシングがよいです。ただ化学療法中で吐き気のある時や、寝る前の歯磨きは重要ですが、子どもがぐずってやりたがらない時もあるでしょう。気分の少し良い時、機嫌の良い時に時間にこだわらず「慣れる」ことを考えてやることも大切です。

歯に強い衝撃を与えないよう日常の注意も必要
歯周病になると歯の骨が吸収されて、そのまま放置するとグラグラになり抜けてしまう場合もありますが、歯根短縮があるとただでさえ根っこが短いですから簡単にグラグラになったり抜けてしまうこともあります。
歯根短縮という状態は、歯をぶつけたりスポーツなどでボールが歯に当たったりした場合少ない衝撃でも抜けてしまうことがあるので、そういうことへの日常の注意も必要です。

形成障害があるかどうかを確認するには?
歯科でレントゲンを撮ることで形成障害の有無を確認することが出来ます。

ただし、治療から4年くらい経過しないとレントゲンでの確認が難しいので、その時期が目安となります。




  6.Q&A 

フッ素を定期的に塗って健診をしてもらうのが一番良いのですか?
その通りです。
多くの化学療法剤は唾液を減少させるので、むし歯が出来やすくなります。歯のエナメル質を直接強化するのは家庭用では今のところフッ素だけです。フッ素は薬局などで買うことが出来ます。また、キシリトールは歯の再石灰化を促進してくれるため、タブレットやキシリトール添加フッ素剤などとしてむし歯予防に役立ちます。

うちは生後11か月で発症して9回化学療法をやりました。今2才です。歯への影響はなにかしらあるということでしょうか?
あると考えられます。
ただ2才だとまだ影響を知るのが難しく、顎をスキャンするレントゲンが撮れるようになる4才以降くらいから調べやすくなります。

歯磨きをさせるのがいいのですね?
そうですね。2才でしたらまず歯ブラシになれていますか? でなければ口の中を人が触れることに慣れているかどうかは重要です。

朝起きた後など機嫌の良い時に慣れさせることが大切です。まず楽しく遊びながら。きれいにすることより慣れることを大事にしてください。それでもいつまでも歯磨きを嫌がってばかりで慣れないようなら、小児歯科の歯医者さんや歯科衛生士さんに相談しましょう。

うちは車いすを使っていて障害もあります。歯科ではむし歯が8本あると言われました。またエナメル質の形成不全ともいわれています。月に1回フッ素を塗ってもらっていますが、家庭用で家でも塗っていたら、エナメル質が硬くなったと言われました。これはどういうことですか?
フッ素を塗ることによって、再石灰化が起こっているのだと思います。
これは良いことです。ただフッ素を塗る時に歯垢がついていると再石灰化が起きないので、歯をきれいにしてからフッ素を塗ることが大切です。

歯根短縮や矮小歯があると大人になってから早い時期に抜けてしまう場合もあると聞きました。抜けてしまった場合でもインプラントなどで歯を再生することは可能ですか?
可能です。
インプラントでは歯ぐきに穴を開けて顎の骨の中に金属の棒を入れるのですが、口の中と言うのは常に唾液にさらされているので、そこへ金属を入れるとどうしてもいろんな感染を起こしやすいということはあります。また歯根の短い歯では、形が変形していることもあるのでなかなか大変な場合もありますが、将来的には可能だと思います。

もうひとつ、矮小歯や歯根短縮によって歯並びが悪くなり、それをきれいにしてほしいという方もいらっしゃいます。やはり昔とちがってQOL、生活の質の向上を求めるようになってきたんですね。ただ歯列矯正については問題点もありまして、もともと根が短いのに矯正のための器具をつけて歯に力を加えると、さらに根が短くなってしまうので、歯列矯正をしたほうがよいのか難しいところですが、選択肢のひとつではあると思います。また歯数が6本以上欠如していると矯正治療が健康保険の適応になり、通常高額になる矯正治療を受けるには有利です。

衝撃によって歯が抜けた場合ですが、乾燥させるとダメなので牛乳につけて歯医者さんに持っていくと良いと聞きますが本当ですか?
本当です。
抜けた歯を本人が口の中に加えておくのが難しければ、牛乳につけて持ってくるのが一番です。
抜けてからの時間が短いほどよくつきますが、永久歯では完全に乾燥して3日くらい経ってしまったものでもトライ出来ます。もちろん乾燥して時間が経てば、元の状態への回復は難しくなり、歯根の吸収や、歯と骨の間の癒着と言われる症状を起こしやすくなりますが、脱落せずにもつことはありますので、まずは小児や外科治療に熱心な歯科医院に受診しましょう。



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